東京高等裁判所 平成12年(ネ)4747号 判決 2000年12月25日
控訴人
ユーザー車検代行会全国総本部代表ことA
被控訴人
ユーザー車検友の会足利支部ことB
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金九五万円及びこれに対する平成一一年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二事案の概要
本件の事案の概要、前提となる事実及び争点は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二頁八行目及び同三頁七行目から八行目の「行うとともに」を「開始した後に」に、同三頁五行目の「不正競争防止法」を「同法」にそれぞれ改める。
2 同四頁一一行目の「原告が創案した名称であり、同会は」を削除する。
3 同五頁二行目の「以来」から三行目の「展開してきた」までを「その後、長年にわたり組織全体で年間一億円近い宣伝費を支出して広く宣伝広告活動をしながら、全国的にフランチャイズ組織を展開し、その加盟する事業者の店舗は全国で六〇〇店以上、その取扱台数は年間一〇万台に達した」に改める。
4 同五頁六行目から七行目の「原告が」から同九行目の「認識されている。」までを「控訴人が創案した造語であり、『自動車のユーザー自らが車検場に出向いて車検を受けること』を意味するが、同時に『ユーザー車検代行会』の略称としても需要者の間に広く認識されている。『ユーザー』及び『車検』の語がいずれも普通名詞であるからといって、これらを組み合わせた『ユーザー車検』の語が普通名詞であるとはいえず、また、『ユーザー車検代行会』の語は、末尾に『会』が付され特定の団体の名称であることが示されているから、普通名詞ではない。」に改める。
第三当裁判所の判断
一 控訴人営業表示の周知性について
1 控訴人は、「ユーザー車検代行会」が控訴人の営業表示として需要者の間に広く認識されていると主張し、その根拠として、控訴人が昭和五八年以来、自動車のユーザー自らが車検場に出向いて車検を受けることを「ユーザー車検」と名付け、ユーザーに代わってこれを代行することを業務とする事業者のフランチャイズ組織である「ユーザー車検代行会」を全国展開し、その加盟する事業者の店舗が全国で六〇〇店以上、その取扱台数が年間一〇万台に達し、組織全体で年間一億円近い宣伝費を支出していると主張する。
2 しかしながら、「ユーザー車検」の語は、「自動車のユーザー自らが車検場に出向いて車検を受けること」を意味するものとして控訴人が造語したものであることは、前記のとおり控訴人の主張するところであり、そうである以上、「ユーザー車検」の語は、右のような意味を有する普通名詞として造語されたものであって、特定の営業主体による営業であることを表示するものではないといわざるを得ない。控訴人は、「ユーザー」及び「車検」の語がいずれも普通名詞であるからといって、これらを組み合わせた「ユーザー車検」の語が普通名詞であるとはいえないと主張し、確かに、普通名詞を組み合わせて成る語が常に普通名詞であるとはいえないが、このことは、「ユーザー車検」の語が普通名詞であるということに何ら反するものではなく、右認定を左右するものではない。
3 また、「ユーザー車検代行会」の語は、末尾に「会」の語が付され、特定の団体の名称であることが示されているから、これが普通名詞でないことは控訴人の主張するとおりである。しかしながら、「ユーザー車検代行会」のフランチャイズ組織全体の店舗数については、九三店舗について記載された契約状況一覧(甲四)が提出されているものの、店舗数がこれを上回ることについては何ら立証がない。仮に、右店舗数を九三店舗とし、取扱台数及び宣伝費を控訴人主張のとおりと仮定しても、我が国全土において保有されている自動車の台数、車検業務の市場規模等に照らして、その規模はさしたるものではなく、また、車検においてユーザー車検が行われている割合及びその件数が証拠上明らかでない以上、ユーザー車検業務の市場において「ユーザー車検代行会」のフランチャイズ組織がどの程度の市場占有率を有するのかは全く不明であるというほかはない。
4 加えて、「ユーザー車検代行会」の語のうち「ユーザー車検」の部分は、前示のとおり普通名詞であり、「代行会」の部分も、業務を代行する団体であることを意味するにすぎないのであって、「ユーザー車検代行会」の語は、普通名詞ではないとはいえ、特定の営業主体を示す出所表示機能が極めて低いものというべきである。
5 これらの事情を総合すると、「ユーザー車検代行会」の表示が控訴人の営業表示として需要者の間に広く認識されていたとは認めることはできないから、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
二 営業表示の類似性について
1 右のとおり、「ユーザー車検代行会」の表示が、控訴人の営業表示として需要者の間に広く認識されていたとは認めることができない以上、右営業表示と被控訴人の「ユーザー車検友の会足利支部」の営業表示との類似性について判断する必要はないが、なお本件事案にかんがみ、この点について付言する。
2 「ユーザー車検代行会」の表示と「ユーザー車検友の会足利支部」の表示とは、「ユーザー車検」の部分を共通にするので、この部分が両表示の要部であるとすれば、両表示の類似性を肯定する余地がある。しかしながら、前記認定のとおり、「ユーザー車検」の語は普通名詞として控訴人が造語したものであり、特定の営業主体を表示するものではないから、営業表示の要部とはなり得ないものである。そうすると、両表示の類否は、これらを全体として観察して判断されるべきであるが、全体として観察したとき、両者が外観、観念及び称呼のいずれにおいても全く類似しないことは明らかである。なお、控訴人は、両表示が「代行会」と「友の会」の「会」の文字において共通することを主張するが、両表示は、それぞれ九文字及び一三文字から成るのであって、「会」の一文字が共通することは、右類似性の判断に何ら影響を及ぼすものではない。
3 したがって、被控訴人の営業表示である「ユーザー車検友の会足利支部」は、控訴人の営業表示である「ユーザー車検代行会」とは類似せず、被控訴人の営業表示に接した需要者が控訴人の営業と混同を生ずるおそれがあるとはいえないから、この点においても、控訴人の請求は理由がないというべきである。
三 結論
以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する請求を棄却した原判決の結論は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)